- 2007年5月14日
マスコミの報道やテレビのワイドショウなどで話題になっているように大人のはしかが流行の兆しを見せています。厚生労働省からは麻疹(はしか)の流行に警戒するようお達しが出ていて、江戸川保健所からも麻疹と診断したらすぐにファックスで知らせるようにと連絡票のひな形が送られてきました。
はしかってどんな病気?
はしか(麻疹)はウイルスによって人から人へと移る感染症です。感染の仕方は空気感染(飛沫感染)で、はしかにかかっている人のセキ・ハナ・痰・唾液などが近くの人に飛び移って感染します。日本では年間20万人近くの人がはしかにかかり、20人から40人が亡くなっています。
長く続く高熱や強いセキ・ハナ、結膜炎など、はしか固有の症状だけでもとてもつらい重症の感染症ですが、肺炎や脳炎など生命に関わる合併症を起こしやすい病気でもあり、はしかの流行はなんとしても防がなければならない重大問題です。
典型的なはしかは次のように進行します。
はしかにかかっている人と接触してウイルスの感染を受けると、8〜12日の潜伏期のあとに、38〜39度の熱と痰のからむ強いセキ、沢山の鼻汁、結膜炎にともなう目ヤニなどで発症します。これらはいわゆる風邪症状なので、この時点ではしかと診断することはほとんど不可能ですが、2・3日後にほっぺの裏側や歯ぐきに「コプリク斑」というはしか特有の細かいプツプツが現れ診断可能になります。
コプリク斑が現れた約2日後に一旦熱が37〜38度に下がり、半日から1日後に再び上昇します。これもはしかに特徴的で、二度目の熱は一度目より高く39.5度以上になります。二度目の熱とほぼ同時に顔や首から鮮紅色の発疹が現れ、3・4日かかってだんだん全身に広がります。この間は39.5度以上の高熱が続きます。
発疹が全身に広がると今度は、現れたときと同じ順序で発疹が消え始めます。色合いもだんだん暗赤色に変わってきます。熱もだんだん下がってきます。合併症がなければこのまま回復に向かいます。
完全に解熱したあとも発疹の跡が茶色になって残ります(色素沈着)が、1〜2週間で自然に消えていきます。
インフルエンザに対するタミフルやリレンザのような特効薬がないため、治療はセキ・ハナを鎮めるクスリ、粘膜の炎症を抑えるクスリ、抗生物質(二次感染の予防・はしかウイルスには無効)、点眼薬などのいわゆる対症療法が中心になります。
診断がついてすぐに症状を和らげる目的でガンマグロブリンという免疫物質を筋肉注射することもありますが、1歳前後の子で2〜3ml、6・7歳で4〜6ml、大人ですと約10mlもの大量を注射しなければなりません。もともととても痛い上に量が多いので、2・3か所に分けて注射しますが、注射されるほうも注射するほうもとてもつらい治療法です。
静脈注射用のガンマグロブリンもあり、これは針を刺すときだけの痛みですみますが、健康保険が使えないので、量にもよりますが、2万円から6万円ぐらいの負担になるでしょう。
はしかの予防
症状が重い上に効果的な治療法がないため、予防ということが大切になります。もっとも効果的なのはワクチンの接種(予防接種)です。はしかワクチンの効果は全世界で認められていて、予防接種に反対する立場の人々でさえ、「はしかだけは受けたほうがよい」というほどです。
日本では従来1歳から7歳5ヶ月までの間に1回だけ生ワクチンを接種するという方法がとられていました。それでも国内ではしかの流行が繰り返されていた時代には、弱まりかけた免疫がホンモノのはしかで再び目覚める(ブースター効果といいます)ことが繰り返され、1回の接種で一生免疫が保たれることが十分に期待できたのです。
ところが予防接種の普及によってホンモノのはしかが減ってしまうと、上に述べたブースター効果が期待できなくなります。そこで人工のブースター効果を与えようと、はしかワクチンの2回接種が世界的な流れになり、我が国でも昨年(平成18年)4月1日から1歳から2歳の間に1回目・小学校入学前の1年間に2回目を接種するように制度が変わりました。しかし、昨年の4月にすでに小学校に入学していたこどもとそれ以上の年齢の子は以前のまま。1回接種しか受けられません。
はしかワクチンの2回接種が定着している欧米の国々では、たとえばアメリカでは2回接種の接種率が91%で年間のはしか患者数が100人(全国で)・死亡者数が2人、カナダでは接種率96%・患者数28人・死亡者数データなし、イギリスでは接種率88%・患者数72人・死亡者数2人という好成績です。全国の年間データですから驚くほどです。ちなみに江戸川区では今年の4月だけですでに29人のはしか患者が報告されているそうです。(江戸川保健所情報)
はしかワクチン2回接種が普及すれば将来的には日本でもはしかの患者数は激減することが期待されていますが、今現実におきようとしているはしかの流行にはどのように対処すればよいのでしょうか?
江戸川区で4月中に29人がはしかと診断されたことはすでに述べましたが、そのうちの77%は16歳以上の大人です。また、29人中はしかの予防接種を受けていなかった人は38%、受けたかどうかわからない人が45%です。予防接種を受けたにもかかわらずはしかにかかってしまった人は14%で、さすがに数は少ないのですが、それでもはしかの予防接種で得られた免疫は一生続かないことを物語っています。
こども診療所では、今年はまだ一人もはしかの患者さんは出ていませんが、何年か前に小学校高学年と中学生の何人かがはしかと診断されました。はしかの予防接種は1歳過ぎに行いますので、免疫が10年ぐらいすると消えてしまうものと考えられます。
それを受けて今年小学校に入学した新一年生からははしかの予防接種を2回受けることになりましたが、それ以上の年齢のお子さん(特に小学校高学年以上)や大人は、自主的に予防接種を受けることを考えた方が良さそうです。
予防接種の料金はそれぞれの医療機関が独自に決めることになっていますが、4000円から5000円ぐらいでやっているところが多いようです。こども診療所は5250円(税込)でやっています。
ただ、ホンモノのはしかにかかってできた免疫は一生続きますので、そういう人は予防接種を受けなくていいのですが、江戸川区では29人中一人だけ以前はしかにかかったはず(確かではない)なのにまたかかってしまった人がいます。確実にかかったと言えない人は予防接種を考えるべきでしょう。一度はしかにかかった人が予防接種を受けても特別副反応が出やすいということはありません。それでも心配だという人は血液検査で免疫の有無を確かめることもできます。免疫がなければ予防接種を受けたほうがいいでしょう。
こども診療所は小児科が中心のクリニックですが、大人の方の予防接種も行います。通常は日時を決めて予約制で行っていますが、事態の重要性を考えて、中学生以上と大人の方のはしか(麻疹)の予防接種に限っては診療時間内でしたらいつでも接種の予約をお受けすることにいたしました。ワクチンの準備の都合がありますので、前日までに予約(電話可)をしていただいた方のみとさせていただきます。
小学生以下のお子さんは待合室で他のお子さんから病気をうつされないように、毎週月曜日と水曜日の午後1時から2時30分の間の予防接種だけを行う時間帯に予約をしていただきたいのですが、どうしても都合がつかない場合には、待合室で病気のお子さんと一緒になるということをご了解いただいた上で、月曜日と水曜日に限り午後4時30分まで予約をお受けいたします。時間を午後4時30分までとさせていただくのは、こども診療所の診療終了時間の午後6時まで1時間以上余裕を持っていないと、予防接種によって万一何らかの健康異常が起きた場合の対応ができなくなってしまうからです。ご理解ください。
中学生以上になりますと、こどもがかかりやすい病気はほとんどかかっていますし、予防接種による健康異常も起こりにくいので、診療時間内のすべてで予約をお受けするものです。