- 2015年9月4日
「こども診療所のブログ」ではすでにお知らせしてありますが、2015−2016シーズンのインフルエンザワクチンの組成(組み合わせ)が変わりました。
その辺の所を少し詳しくご説明いたします。
《インフルエンザワクチンの組み合わせ》
ワクチンの組成は去年まで、Aソ連型(H1N1)とA香港型(H3N2)、それにB型を加えた3種混合ワクチンでした。ちなみに去年のワクチン製造のもととなったウイルスは次の通りです。ワクチンのもとになるので「株(かぶ)」と呼びます。
【 A型株 】
A/カリフォルニア/7/2009(H1N1)
A/ニューヨーク/39/2012(Xー233A)(H3N2)
【 B型株 】
B/マサチューセッツ/2/2012(BXー51B)
地名はそのウイルスが採取された土地名、2009とか2012というのはそのウイルスが採取された年です。去年はどういうわけかすべてアメリカで採取された株が使われていました。
それでは今年のワクチン株はどうなっているでしょうか?
ワクチン株はWHOが世界中から集めた流行株のデータを分析し、毎年春先にその年の流行株を予測し、「推奨株」として発表します。
各国はそれにその国独自のデータを加えて分析し、夏前にワクチンメーカーにその冬使用するワクチン株を知らせます。
メーカーはそれからワクチン製造に取りかかるわけですが、ワクチン株も製法もすべて同一基準で作られますから、メーカーが違っても国内で生産されるワクチンはすべ同じ規格になっています。
さあそれでは今年のインフルエンザワクチンの組成はどうなっているでしょう!
【 A型株 】
A/カリフォルニア/7/2009(H1N1)pdm09
A/スイス/9715293/2013(NIBー88)(H3N2)
【 B型株 】</span>
B/プーケット/3073/2013(山形系統)
B/テキサス/2/2013(ビクトリア系統)
ありゃりゃ?!
B型株が2種類に増えて四種混合ワクチンになっていますね。
その理由をご説明いたします。
従来のインフルエンザワクチンはA型に対してはそこそこの効果が期待できても、B型に対する効果はあまり期待できないというのが通説でした。B型インフルエンザウイルスにはA型のようにH1N5とかH3N2といった明確な違いがないので、「とにかくB型」という形でワクチンが作られていてB型インフルエンザウイルスの微妙な違いに対応できていなかったためと考えられます。
ところが近年B型インフルエンザウイルスの中でも、上に示したように「山形系統」と「ビクトリア系統」という群が混合で流行していることがわかってきました。WHOは数年前からB型のワクチン株を2種類に増やすことを推奨していました。それで我が国でも今シーズンから2つの群のウイルス株をもとに四種混合ワクチンを作ることになったというわけです。
今シーズンからはB型インフルエンザに対しても効果が期待できるようになることを期待しています。
ところで、ワクチン株が増えた分、接種量(注射の量)も増えるのでしょうか?
接種量は変わりません。
DPT三種混合ワクチンに不活化ポリオワクチンが加わって四種混合ワクチンになった時も、接種量はDPTの時と同じ0.5mlでした。でも、不活化ポリオワクチンを単独で接種する時は、単独であるにもかかわらず0.5mlを注射します。
え〜〜〜っ!どおしてぇ〜〜〜?
ワクチンの効果というのは、接種量の中に含まれる抗原物質の量で決まります。抗原物質が多く含まれた(濃い)ワクチンなら接種量は少なくてすみます。三種混合から四種混合にした時、それぞれのウイルス株を濃いめにすれば接種量全体を増やさなくてすみます。
といえば話は簡単なのですが、実際はもっと複雑な理由があります。ここから先はブログでは省略しましたが、ここではかいつまんでお話しします。
すべてのワクチンは細菌やウイルスなどの病原体を使って作られます。病原体は微生物ですから、必ず蛋白を含んでいます。ワクチンの副反応を起こす犯人はほとんどの場合この蛋白なのです。そして蛋白の量が増えれば増えるほど副反応は起こりやすくなるのです。
たとえば、はしか(麻疹)ワクチン(M)と風疹ワクチン(R)を混合してMRワクチンを作るとします。これらのワクチンを単独で接種するときには、どちらのワクチンも1回量は0.5mlです。MとRをそのまま混ぜれば1回接種量は1mlになります。
その中(1ml)に含まれるそれぞれのワクチンの抗原物質の量は変わりませんが、蛋白の量が増えます(単純に2倍になるわけではありません)。それだけ副反応が起こりやすくなります。
そこで、MとRをそれぞれ半量(0.25ml)ずつ混ぜるとします。そうすると蛋白の増加は抑えられますが、抗原物質の量が減って、副反応は出にくいけれど効果の薄いワクチンになってしまいます。
混合ワクチンを開発するときには、常にこのジレンマがつきまとうわけです。
さらに我が国では(他の国々もそうだと思いますが)、ワクチン1回接種量に含まれる蛋白量の上限というのが定められていて、副反応に対する配慮がなされています。
また、1回接種量を増やすと、蛋白の量だけでなく、接種を受ける人への負担も増加します。
このようなジレンマや多くの制限を乗り越えて開発されるのが混合ワクチンなのです。
「四種混合になっても接種量は変わりません」と簡単に申し上げましたが、実はこのような努力の結晶なのだということをご理解下さい。