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肺炎球菌ワクチンのすべて

  • 2010年9月18日

肺炎球菌ってどんな細菌?

ワ クチンの話を離れて肺炎球菌そのもののお話をします。肺炎球菌がどんな形をしているかといいますと、2つの豆の入った枝豆を想像していただければよろしい と思います。豆の部分が菌体で、枝豆の殻を莢膜と呼びます。肺炎球菌は球形の菌体が二つ連なっています。それで以前は肺炎双球菌と呼ばれた時代もありまし た。しかしここで重要なのは菌体ではなく菌体のまわりを包む莢膜です。

莢膜は「キョウマク」と読みますが、莢の字は「莢豌豆(サヤエンドウ)」の「サヤ」です。肺炎球菌の菌体をサヤのように包んでいるんですね。

ところで、肺炎球菌の莢膜はちょっとした化学構造の違いから約90種類もあります。それから莢膜を持っていない肺炎球菌もあります。莢膜のない肺炎 球菌が重症の感染症を起こすことは比較的稀です。そしてこれらの肺炎球菌に対して免疫をつけようとすると、一つ一つの莢膜のタイプ(莢膜型あるいは血清型 といいます)に対して免疫をつけなければなりません。

一つの血清型に対して有効なワクチンを一価のワクチンといいます。三つなら三価、十個なら十価というわけです。すべての血清型に有効なワクチンとな ると実に90価にもなってしまうのですが、実際には、高齢者用の「ニューモバックス」が23価、乳幼児用の「プレベナー」にいたってはわずか7価です。

「そんなぁ、こころもとな〜い」と思われるかもしれませんが、肺炎球菌のすべての血清型が人間に重症の感染症を起こすわけではありません。「ニュー モバックス」に含まれる23の血清型は高齢者の肺炎球菌感染症の約80%をカバーしているという報告もありますし、「プレベナー」もわずか7価ではありま すが、それでも乳幼児の肺炎球菌感染症の約80%をカバーできるという外国の報告もあります。

ワクチンの話はまたあとで詳しく説明しますので、とりあえずここでは、「肺炎球菌と一口に言っても実は同姓の分家がいっぱいあって、それぞれの分家 に対して免疫をつけなければいけないんだけど、実際にはその中でも特に世の中で活躍(悪い意味で)しそうな分家にだけ対策を立てておけばいい」と考えてく ださい。

ところで、「Hibワクチンのすべて」では触れていませんが、インフルエンザ菌も莢膜を持つ菌と持たない菌とがあります。肺炎球菌同様莢膜を持つイ ンフルエンザ菌が重症感染症を引き起こします。インフルエンザ菌の莢膜のタイプ(血清型)はa型からf型の6種類だけです。そのうちb型の莢膜を持ったイ ンフルエンザ菌が最も重症感染症の危険を持っているので開発されたのがHib(Haemophilus influenzae b の頭文字)ワクチンです。したがってHibワクチンは1価のインフルエンザ菌ワクチンということができます。

最後に一般的な話になりますが、莢膜を持った細菌(肺炎球菌やインフルエンザ菌など)による感染症はなぜ重症化しやすいのでしょう?

一般に細菌が体内にはいると、細菌をやっつけるためにある種の白血球が細菌を食べてしまいます。実際に食べるわけではなく、細菌を白血球の細胞内に 取り込んでしまうのですが、この現象がパクパク細菌を食べているように見えることから「貪食(どんしょく)」と呼ばれています。莢膜はこの白血球の貪食に 対して抵抗性があるのです。小さな動物が外敵から身を守るために固い殻の中に閉じこもるのに似ています。

莢膜を持つ細菌は莢膜によって白血球から身を守る、だからなかなかやっつけられない、だから重症化しやすい、というわけです。

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