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肺炎球菌ワクチンのすべて

  • 2010年9月18日

こどもの肺炎球菌感染症

「肺炎球菌という名前なんだから肺炎を起こす細菌だろう」、確かにそうなんですけど、こどもでは肺炎球菌で起こる肺炎はそれほど多くはありません。肺炎を起こす菌として特に警戒しなければいけないのはこどもではなく大人、特に高齢者の方々です。

ここでは、こどもの肺炎球菌感染症に限ってお話を進めていきたいと思います。昨年はインフルエンザ菌(Hib菌)について詳しくお話しましたので、Hib菌と対比させながらお話しします。

《細菌性髄膜炎》
こどもの生命にかかわるような、そして重度の後遺症を残す恐れも多々ある重症感染症を引き起こすという点では、肺炎球菌はHib菌と並んで横綱クラスです。

特に細菌性髄膜炎の起因菌(原因となる細菌)としては、Hib菌の次に多い菌です。Hib菌髄膜炎にかかる日本のこども達が年間約600〜800人 であるのに対して、肺炎球菌髄膜炎は約200人とHib菌髄膜炎の3分の1から4分の1程度です。しかし、Hib菌と肺炎球菌を合わせるとこどもの細菌性 髄膜炎の約4分の3を占めてしまうのです。

この二つの細菌とB群溶血性連鎖球菌それに大腸菌を加えて、小児細菌性髄膜炎の四大起因菌と呼ぶこともあります。この四大起因菌による小児の細菌性 髄膜炎がどのような月齢・年齢で起こるかを見てみますと、肺炎球菌髄膜炎とHib菌髄膜炎はほぼ同じような月齢(年齢)分布をしていることがわかります。

そして、肺炎球菌髄膜炎の重症度ですが、かかったお子さんの約30%が不幸にして命を落とすか後遺症を残してしまうとされています。死亡率と後遺症率別々のデータが見つかりませんでしたが、死亡率約5%・後遺症率約25%のHib菌髄膜炎とほぼ同等の重症度と言えます。

細菌性髄膜炎については「Hibワクチンのすべて」で詳しく説明してあります。

《細菌性中耳炎と副鼻腔炎》
まずは最も重症となる病気の説明をしましたが、肺炎球菌の特徴は色々な種類のこどもの感染症の起因菌となっているということです。一番身近なところでは6歳未満のこどもの細菌性中耳炎の起因菌の約30%は肺炎球菌です。

中耳炎と並んで副鼻腔炎もこどもの風邪の合併症としては多い病気です。これらの病気は、風邪そのものが肺炎球菌で起こるのではなく、ウイルスで起 こった風邪のためにのどや鼻の粘膜の抵抗力が弱まり、もともとこれらの粘膜に定着していた肺炎球菌が暴れ出すと考えられています。

エ〜〜〜〜〜ッ!肺炎球菌っていつでものどにいるのぉ?と驚かれる方が多いと思います。肺炎球菌に限らず、インフルエンザ菌(Hib菌以外も含む) も、健康なこどもののどや鼻の粘膜から見つかることがあります。粘膜にくっついているだけだったらたいした悪さはしないのです。

また、風邪のためにのどや鼻の粘膜の抵抗力が弱まり、もともとこれらの粘膜に定着していた肺炎球菌が暴れ出すとはいっても、粘膜伝いに中耳や副鼻腔に侵入して炎症を起こすだけなら、生命にかかわるような重症の感染症にはなりません。

《肺炎球菌性肺炎》
日本では、特に小児では細菌による肺炎はそれほど多くはありません。マイコプラズマやウイルスによる肺炎のほうが多いのです。しかし、多くはないとはいえ、肺炎球菌はこどもの細菌性肺炎の起因菌のトップを占めています。

のどに定着していた肺炎球菌が粘膜伝いに気管から気管支、さらに肺へと侵入して起こります。これは中耳炎や副鼻腔炎よりは重症です。もちろん髄膜炎にも引けをとらない最重症の肺炎になることもあります。

《菌血症》
聞き慣れない言葉(病名)ですが、金欠病とは違いますよ!細菌が粘膜伝いではなく、何かの拍子で血液中に侵入してしまい、血液の中で増え(増殖し)ながら全身を回っている(循環している)状態のことを指します。

肺炎球菌は、この菌血症を起こしやすいことで知られています。

日本の3歳未満の小児の菌血症の起因菌の80%以上は肺炎球菌であるという報告があります。約10%強がインフルエンザ菌、残りがその他の細菌となっています。

菌血症は肺炎球菌が粘膜伝いに侵入するのとは違ってからだの深部に侵入しますから、重症の感染症になりやすいのです。細菌性髄膜炎もこの菌血症の状 態から移行します。肺炎も菌血症から移行したものは重症肺炎になります。このような重症感染症は「侵襲性肺炎球菌性疾患」(IPD)と呼ばれています。

菌血症の初期に診断がつけば重症の侵襲性肺炎球菌性疾患(IPD)への移行を防げるかもしれません。でも、菌血症の初期症状というのは高熱以外にめ ぼしいものがない場合が多く、菌血症を疑って血液の細菌検査を行っても、結果が出るのは早くて2日後となってしまい、なかなか確実な診断がつかないことが 多いのです。このような状態の菌血症を潜在性菌血症と呼んでいます。

しかし、潜在性菌血症のすべてが侵襲性肺炎球菌性疾患(IPD)に移行するわけではありません。潜在性菌血症の多くは自然に治ります。日本では年間に約1万8000人の乳幼児が潜在性菌血症になり、そのうち約200名(約1%)が細菌性髄膜炎に移行してしまっています。

ここでご紹介した病気の重症度と患者数の関係を見てみますと、最重症の細菌性髄膜炎はHib菌よりも少ないけれど、肺炎球菌による菌血症はHib菌による菌血症より7倍から8倍多いということ、そして肺炎球菌による小児の感染症は種類が多いということをご確認ください。

菌血症からは、他にも骨髄炎や関節炎といったからだの深部の感染症や、血管内血液凝固(血管の中を流れているにもかかわらず血液が固まってしまう)という通常は起こりえない状態を引き起こすこともあります。

日本ではHib菌ばかりがやけに有名になってしまって、肺炎球菌はあまり目立たない存在ですが、Hib菌同様侮れない細菌であるということを認識してください。

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