ホーム > トピックス > 肺炎球菌ワクチンのすべて

肺炎球菌ワクチンのすべて

  • 2010年9月18日

「プレベナー」の効果 −その1−

「プレベナー」は、約90種類ある肺炎球菌のタイプの中で7種類のタイプで起こる肺炎球菌感染症を予防するためのワクチンです。たった7種類です が、この7種類を予防することで、小児の重症(侵襲性)肺炎球菌性疾患(IPD)の約80%はカバーできるという外国のデータがあります。

「プレベナー」にはどの程度の予防効果があるのでしょうか?

米国のデータでは、侵襲性肺炎球菌性疾患(IPD)である髄膜炎と菌血症に限って有効性を調査したものです。

簡単に説明すると、約2万人の乳幼児を対象にした調査で、「プレベナー」を接種していなかった群約1万人では39人がIPDにかかってしまったけれど、「プレベナー」を接種していた群約1万人でIPDにかかってしまったのは一人だけだったというデータです。

このデータを統計学的に解析すると、「プレベナー」を接種すればIPDにかかる危険性は97.4%減少するということになります。

別の表現をすれば、この世に「プレベナー」が存在しなければ100人がIPDにかかってしまうけれど、「プレベナー」で予防をすれば2〜3人しかIPDにはかかりませんということです。

髄膜炎だけに限っていえば、日本では毎年約200人のお子さんが肺炎球菌性髄膜炎にかかっています。日本で「プレベナー」の定期接種(全員接種)が実現すれば、年間の発症者は単純計算で4〜6人になりますよということでもあるのです。

別のデータもあります。 やはり米国のデータですが、「プレベナー」が米国で定期接種になる前の1998年から1999年にかけては、人口10万人あたりのIPD発症数が81.9 例だったのに比べ、定期接種化後の2005年には、人口10万人あたりのIPD発症数が1.7例に減少したというデータです。減少率は98%。調査の時期 は前のデータのあと5年ほどたってからですが、前のデータとほぼ同じ結果が得られています。

このデータにはおまけが付いています。同じ施設で行われた調査ですが、西暦2000年の「プレベナー」定期接種化をはさんで1998年から2003 年まで調べたところ、5歳未満の乳幼児でのIPD発症率(人口10万人あたり)が、94%減少したのに対して、65歳以上の高齢者でも65%の減少が見ら れたというものです。

この結果について、日本の肺炎球菌ワクチン定期接種化推進派は、「プレベナー」を定期接種化することで、高齢者のIPDまで予防できる!「プレベナー」には社会全体を守る効果がある!と宣伝していますが、へそ曲がりな私は諸手を挙げて賛成するわけにはいきません。

この調査が行われた時期、アメリカにおいても高齢者用肺炎球菌ワクチンの予防接種は行われていたからです。高齢者においてIPDの発症率が下がった ことについては、この高齢者用のワクチンの効果についても判断しなければなりません。データの解析はより複雑になり簡単に結論は出ないでしょう。

でもその結論が出てもなお、「プレベナー」が高齢者のIPDを減少させるという結果であれば、その時初めて「プレベナー」は社会全体を守ると言えるのであって、このデータだけから短絡的に結論は出ないと思います。

なんか「プレベナー」の効果にイチャモンをつけているみたいですが、私は「プレベナー」を日本で定期接種にすることに反対するつもりは全くありませ ん。これだけの高価なワクチンですから、任意接種のままで、一部の人たちしか受けられない状況は1日も早く解消すべきだ、全額公費負担による定期接種化を 急がなければならないと思っています。しかし、現在の状況が続けば、アメリカでのデータのようなよい成績は得られません。

極端に言えば、「予防接種受けた乳幼児はIPDにかからないけれど、受けていない乳幼児は1万人につき40人弱はIPDにかかってしまうかもしれませんよ」ということになるのです(数字は初めのグラフの米国における数字をもとにしています)。

本気で病気を減らそう(あるいはなくそう)と思ったら、予防接種は全員接種でなければならないのです。Hibワクチンの時にも言いましたが、日本の 厚労省はとてもこどもの命を守ろうとしているとは言えないと思います。今にもつぶれそうな民主党政権の「命を守る政治」は、普天間基地問題だけでなく、こ こでもウソをついているのです。

「命を守る政治」のことはまた別の機会にお話ししようと思っていますが、とにもかくにも「プレベナー」の有効性に疑いをはさむ余地はありません。た だし、そのことはアメリカのように定期接種化(全員接種)してこそ言えることだということを決して忘れないでいただきたいのです。

もちろん、接種を受けた一人一人に対する効果も十分に期待はできます。個人負担の任意接種である現状では、「接種を受けた子はかからない」という現実を受け入れるしかありません。

その一人一人に対する効果について「プレベナー」発売前の、日本国内における臨床試験の結果をもとに予防接種後の抗体保有率と抗体の濃度という理論的な観点で考えてみます。

ページの先頭へ戻る