- 2010年9月18日
病気の予防と感染の予防
はしかの予防接種、おたふくかぜの予防接種、日本脳炎の予防接種等々、予防接種の数は十指に余るほどありますが、ほとんどの場合、ワクチンの名前と予防する病気の名前は1対1で対応しています。
はしかの予防接種をすればはしかにかからない、おたふくかぜの予防接種をすればおたふくかぜにかからない、日本脳炎の予防接種をすれば日本脳炎にかからない等々です。
このように病気と1対1で対応しているワクチンは「病気の予防」という考え方で問題はありません。でも実際は、はしかワクチンははしかウイルスに対 する抗体を作り、おたふくかぜワクチンはおたふくかぜウイルスに対する抗体を作り、日本脳炎ワクチンは日本脳炎ウイルスに対する抗体を作って、これらのウ イルスによる感染を防いでいるわけです。その結果として病気の予防を行っているわけです。
ですから、肺炎球菌ワクチンは肺炎球菌に対する抗体を作って肺炎球菌による感染を防いでいるのであって、別に髄膜炎や菌血症や中耳炎や副鼻腔炎とい う病気そのものの感染を防いでいるわけではないのです。しかも、「プレベナー」の場合、約90種類のタイプのうちのたった7種類に対する抗体しか作りませ んから、それ以外の肺炎球菌に対しては全く無防備状態です。
そこからなら、先に述べたような簡単な答えが導き出されるわけですが、言われてみればなるほどの話でも、そこに気づくのがなかなか難しいですね。
それでもなお、中耳炎や副鼻腔炎を起こすのはどのタイプの肺炎球菌なんだろうという疑問が生じますね。でも残念ながらアメリカの例でお話ししたよう に、「プレベナー」はIPDさえ防いでくれればそれで十分という目的で作られていますから、中耳炎だの副鼻腔炎がどのタイプの肺炎球菌で起こるかは問題に されていないし、ワクチン承認に際してデータの提出も要求されなかったのです。
「プレベナー」のプラスアルファ
上で述べた『「プレベナー」の場合、約90種類のタイプのうちのたった7種類に対する抗体しか作りませんから、それ以外の肺炎球菌に対しては全く無 防備状態です』という表現は理論的には間違いではないのですが、実際には、7価のワクチンを接種すると、その7価に含まれるタイプの肺炎球菌に対する抗体 が作られるだけでなく、7種類のタイプに近いタイプの肺炎球菌に対しても抗体を作ることがあるのです。これを「交差免疫」と呼んでいます。
菌血症を起こした肺炎球菌のうち、約70%は「プレベナー」に含まれるタイプの菌、約14%が交差免疫を持つタイプの菌だったという我が国でのデー タがあります。いつどこで調べたのかという詳細はわからないのですが、もしこれらの菌に対しても「プレベナー」が有効であるとなれば、このワクチンが IPDを起こす菌種に限っていえば、約80%の菌種をカバーするという外国のデータに近い数字ということができます。
これ以上のことはデータをもとにお話しすることができないのですが、7価の肺炎球菌ワクチン「プレベナー」は、7種類プラスアルファの菌種に対して有効であると考えることは可能だと思います。プラスアルファがどの程度かについては未知数です。